老犬を抱っこして歩く夕暮れに。周りの目なんて、愛犬の「ドヤ顔」ひとツでどうでもよくなった話
近所の公園で、トイプードルの老犬を前抱っこしながらゆっくり歩いていたときのこと。すれ違った若い犬の飼い主さんから「あら、抱っこ散歩?甘やかされて幸せねぇ」と声をかけられました。
悪気のない言葉だとわかっていても、胸の奥が少しチクッとしたのを覚えています。
「犬なんだから自力で歩かせるべきじゃないか」 「歩けないのに外に連れ出すのは、親のエゴなんじゃないか」
かつてはドッグランを風のように走り回っていた愛犬。それがいつしか数歩歩いては立ち止まり、足元をフラつかせるようになる。焦りと切なさに苛まれ、周りの視線から逃げるように早朝や深夜ばかり散歩していた時期が、私にもありました。
でも、ある日気づいたんです。抱っこされた愛犬の、誇らしげな表情に。
歩かなくなったら「敗北」だと思っていた、あの頃の反省
シニア期に入り、散歩の途中で座り込むことが増えた愛犬に対し、当時の私は「なんとか筋力を落とさせまい」と必死でした。
「ほら、あと少し頑張ろう」「自分の足で歩かないと、本当に歩けなくなっちゃうよ」
声をかけながら、無理に歩かせようとしていたんです。しかし、動物病院の獣医師にボソッと言われた一言で目が覚めました。
「お母さん、今のこの子にとっての散歩は『筋トレ』じゃなくて『気分転換』ですよ。疲れた筋肉に鞭打って歩かせても、痛くて散歩が嫌いになるだけです」
ハッとしました。私は愛犬の体調ではなく、「歩かせなければならない」という自分の固定観念と戦っていただけだったのです。
それからは、散歩のルールをガラリと変えました。 「最初の10メートルだけ歩いたら、あとは全面抱っこ OK」。 すると、あんなに外へ行くのを渋っていた愛犬が、再び玄関でシッポを振るようになったのです。
実際に抱っこ散歩をして分かった「マニアックなこだわり」
ただ抱っこして歩くだけ、と思われがちですが、老犬の抱っこ散歩には「シニアならではの技術」と「絶対に譲れないギア選び」があります。私が試行錯誤の末に行き着いた、マニアックな気づきをお話しします。
1. 「脇の下抱っこ」はNG。骨盤と胸郭を下から面で支える
若犬なら脇の下に手を入れてヒイッと持ち上げても問題ありませんが、関節が固まった老犬にそれをやると、肩関節や脊椎を痛めます。 我が家では、まずお尻(骨盤)を下からしっかり受け止め、もう片方の腕で胸全体を優しく包み込む「縦抱っこ(高い高いの体制に近い形)」を徹底しました。犬の体重が自分の体幹に乗るように密着させると、お互いに驚くほど疲れません。
2. スリングは「浅め」より「底が安定したキャリーバッグ」
一時期おしゃれな抱っこスリングを使っていましたが、背中が丸まりすぎてしまい、呼吸が浅くなっていることに気づきました。シニア犬は気管や呼吸器系も弱っています。 背骨が自然な姿勢を保てるよう、底板がしっかりしたバッグや、前抱っこ用のリュック型キャリアに変えたところ、愛犬の吐息がすーっと穏やかになりました。
3. ペットカートは「タイヤのエアクッション性」で選ぶべきだった
抱っこでの散歩が長引くと、飼い主の腰が悲鳴を上げます。そこでペットカートを導入したのですが、最初に買った安価なプラスチックタイヤのものは失敗でした。アスファルトの振動がダイレクトに伝わり、愛犬が怖がって乗ってくれなかったのです。 サスペンション付きやエアタイヤ仕様のカートに買い替えた瞬間、振動が消え、カートの中でウトウトと心地よさそうに目を細めるようになりました。
匂いを嗅ぎ、風を切り、愛犬は「視界の高さ」を楽しんでいる
抱っこ散歩をしていると、不思議な光景に出会います。
地面を歩いているときは下ばかり向いていた愛犬が、抱っこされた途端、シャキッと首を立てて遠くを見つめるのです。 目線の高さが地上15センチから、飼い主と同じ150センチ高さへ一気に上がる。 街路樹の葉が揺れる音、普段は届かない高い位置にある花の匂い、遠くを走る車の動き。
地面を自力で歩くことだけが散歩ではありません。外の空気を吸い、脳に刺激を受け、飼い主の温もりと心音を感じながら世界を眺める。 これこそが、老犬にとって最高に贅沢な「脳のアンチエイジング」であり、生きている歓びそのものなのだと、愛犬の表情が教えてくれました。
もし今、街中で抱っこ散歩をしていて「甘やかしている」「歩かせなきゃダメじゃない」という視線を感じたら、心の中でこうつぶやいてみてください。
「この子は今、ファーストクラスで世界旅行中なんです」と。
周りの目より、腕の中にある「今だけの温もり」を
いつか、どれだけ願っても、その重みを腕に感じることができなくなる日が必ず来ます。
「あの時、恥ずかしがらずにもっとたくさん抱っこしてあげればよかった」 後になってそう悔やむくらいなら、周りの目なんて全部無視して、今この手でしっかりと愛犬を抱きしめてあげてください。
歩いてもいい。休んでもいい。抱っこでも、カートでもいい。 腕の中にある愛犬のじんわりとした温もりと、腕にかかるズッシリとした愛おしい重み。それを味わえるのは、長い歳月を共に乗り越えてきた飼い主だけに与えられた「特別な権利」なのですから。
今日も、胸を張って愛犬を抱っこし、いつもの道をゆっくり歩いていきましょう。